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【Book 1】
※ChatGPTに古代ギリシャ語版Dionysiacaを翻訳させています。
※内容の確認にはまだ手をつけていません。今後数年かけてW.H.D.Rouseの英訳との突合を行います。
※ソースはPerseus Digital Libraryです。




まずは、ゼウス(クロニオン)、光輝くニンフの略奪者、
そしてテューポーンの手により星々の天を打ち砕かれし者のことを語れ。

語れ、女神よ、クロノスの子(ゼウス)が放つ輝ける閃光の使者を、
花嫁の婚床を焦がす火花を孕む雷霆の苦しき息吹を、
また、稲妻の閃光を、セメレーの寝所に仕えるものとして語れ。
そして、二度生まれしバッコス(ディオニューソス)の血筋を語れ。

ゼウスは火の中から水のごとき幼子を引き上げた、
未熟なまま母の胎を出ることを強いられた子を。
彼は憐れむようにその手で自らの腿に切れ込みを入れ、
そこに宿し、父であり母として胎内に抱いた。

異なる出産を知る神ゆえに、
彼は額に信じがたき無種の膨らみを持ち、
妊る胸に抱え、
ついには武装した輝くアテーナーを放ったのであった。


葦の杖(ナルテクス)を運べ、銅鉢(キュンバラ)を鳴らせ、ムーサたちよ、
そして手にテュルソスを持たせよ、歌われるディオニューソスのために。
だが、舞踏の中で触れることができるように、
ファロスの近くの島に変幻自在なるプローテウスを立たせよ、
彼の姿が変化するように、私も多彩な賛歌を響かせるのだ。

もし彼が大蛇となり、巻きつく姿を見せるなら、
神聖なる戦いを歌おう、
いかにして彼が蔦巻くテュルソスをもって、
恐るべき蛇髪の巨人たちの群れを討ったかを。

もし彼が獅子となり、たてがみを震わせるなら、
レアの逞しき腕に抱かれ、
獅子を育てる女神の乳房を吸ったバッコスを讃えよう。

もし彼が激しき跳躍をもって、
豹となって姿を変えるなら、
ゼウスの子を讃えよう、
いかにして彼が豹の戦車に乗り、インドの民を討ったかを。

もし彼が猪の姿をとるなら、
テュオネの子(ディオニューソス)が、
猪を討ちしアウラを求めたことを歌おう。
彼女こそが、後に生まれし三番目のキュベレーの母となる。

もし彼が水へと姿を変えるなら、
武装したリュークールゴスから逃れ、
海の深き懐へと沈んだディオニューソスを歌おう。

もし彼がざわめく草木へと変わるなら、
イカリオスを思い起こそう。
いかにして、巫女の酒壺のもとで、
葡萄が足で踏みしめられ、酒となったかを。


葦の杖(ナルテクス)を運べ、ミマッロネスたちよ、
そして、生肉の香る色とりどりの鹿皮を、
帯の代わりに胸に巻きつけよ、
マローネスの甘美な芳香に満ちた衣として。
深海に住まうエイドテアとホメロスの詩に語られし、
アザラシの重き皮は、メネラーオスのもとに留めておくがよい。

エウオイ! 私に響き渡る響板(ロプトラ)を与えよ、
アイギスの盾を掲げよ。
そして、他の者には甘美な音色の
二管の葦笛(アウロス)を授けよ、
されど、我がアポローンを怒らせぬようにせよ。
彼は葦の息吹く響きを忌み嫌うゆえに。

それは、かつて彼がマルシュアースの
神に挑みし笛(アウロス)を論駁し、
その皮を剥ぎ取り、風に翻る
樹の幹へと吊るした時より続くものだから。
彼は、美しき鼻を持つ羊飼いの
全身を裸にしたのだ。


しかし、女神よ、放浪するカドモスの物語を始めよ。


かつて、シドンの岸辺において、角高き牡牛の姿となったゼウスは、
甘美なる嘶きを偽りの喉で真似し、
優しく誘う瞳を持っていた。
彼は乙女を誘惑し、
その腕を巡らせ、二重の絆で彼女の腰を縛った。

小さきエロースが、彼の働きを軽やかに助け、
波間に進む牡牛は、
うねるたてがみを伏せ、
しなやかに身を沈めながら、
エウローペーを背に乗せて運び去った。

駆ける牡牛の蹄は、
静かなる海の水を優しく撫で、
波音すら立てぬほどに進んだ。
海の上で怯え震える乙女は、
しっかりと牛の背に身を預け、
揺るぎなく、濡れることもなかった。

それを見たならば、
おそらく彼女を、
テティスかガラテイアか、
あるいはポセイドンの妃か、
あるいはトリートーンの背に座すアプロディーテーと
思ったことだろう。

青髪のポセイドンも、
優雅に歩むその航海に驚嘆し、
トリートーンはゼウスの牛の嘶きを聞き、
その響きを真似て貝殻を吹き鳴らし、
婚礼の歌を奏でた。

運ばれる乙女の恐怖に満ちた姿を、
海神ネーレウスはドーリスに示し、
角を持つ奇妙な旅人の姿に驚いた。

その乙女は、
牛を船のように駆る航海者となり、
波を超えて跳ねる度に震え、
その角を舵のように掴みしめた。
愛の神(ヒメロス)はまるで船乗りのように、
彼女と共にいた。

狡猾なる北風が、
婚礼の風に翻弄され、
彼女の衣を膨らませ、
両の乳房の間を優しく滑りながら、
隠れた嫉妬の熱をそっと奪い取った。

まるで海のニンフが、
海の上に身を乗り出し、
イルカの背に腰掛けて
穏やかな波間を駆けるかのように。
彼女の差し出した腕は、
水を掻くように震えながら、
半ば水の中に沈み、
それでも塩水に濡れることはなかった。

牛は背を反らし、
水を分けながら進み、
まるで魚の尾が水面に
二重の航跡を描くようであった。

こうして進みゆく牡牛の首筋を、
エロースはその魔法の帯で打ち、
まるで羊飼いが杖を持って
羊を導くように、
キュプリス(アプロディーテー)の導きに従い、
ヘーラーの夫となるべき乙女を
海の牧場へと運んだ。

それを見つめるアテーナーは、
ゼウスの御者たる乙女の姿に、
処女の頬を赤らめた。

ゼウスが海を駆け抜けるその時、
波はその愛を消し去ることはなかった。
なぜなら、海の子宮はアプロディーテーを産み、
天の流れから孕んだ水の中で、
その愛は脈打っていたからだ。

こうして、音もなく進む牡牛の背に乗り、
乙女は運ばれ、
旅人でもあり、
船の積荷ともなった。

彼女の姿を目にしたギリシアの船乗りは、
波間を駆けるこの奇妙なる船を見て、
驚きの言葉を叫んだ――


「おお、我が目よ、これは何たる驚きか?
どこから現れたというのだ、この波を裂いて進む
野を駆けるはずの牡牛が、果てしなき海を泳ぐとは!

まさか、ゼウスが大地を浮かべ、
海の上を渡る車輪の跡を刻ませるというのか?
波間を見つめれば、これは偽りの航海か?
あるいは、月の女神が孤独なる牡牛を従え、
天空を越え海を旅しているのか?
それとも、海の女神テティスが深き海より
この奇妙なる疾走を御しているのか?

いや、これは陸の牡牛ではない、
海の牡牛の姿は、まるで魚のようだ。
裸の旅人ではなく、
異形なるネーレウスの娘が、
波間に御せぬ牡牛を駆るではないか。

もしこれが金色の穂を持つデーメーテールならば、
青き波間を牛の蹄で裂くこともあるだろう。
ならば、ポセイドーンよ、
お前もまた陸を捨て、
波間を歩む旅人となるのか?
まるで船の鋤で
デーメーテールの畝を刻むがごとく、
風の吹く大地に、
航海の道を作るつもりか?

しかし、牡牛よ、お前は道を誤った旅人だ。
ここにはネーレウスの放牧地はなく、
プローテウスの耕す野も、
グラウコスの漁場もない。
ここにあるのはただ広がる海のみ。
果てしなく、種まかれぬ水の原、
そこを人々は舵で切り裂くが、
鋤の刃ではない。

海神ポセイドーンの従者たちは
畝を耕し種を撒くことはなく、
ただ海の植物は藻を生やし、
その種子は水のみである。
今、お前は農夫ならぬ航海者、
畝ならぬ航路を刻み、
鋤ではなく、櫂を操る。

しかし、牡牛よ、お前は
誰を連れ去っているのだ?
まさか牡牛たちも
女を奪うほど恋に狂うのか?
それとも、またしてもポセイドーンが
欺きの業を働き、
河神の姿を借りて
乙女をさらったのか?

ああ、これはまたもや
かつてティーローの寝所で
水の流れを模し、
偽りのエニペウスとなって
彼女を欺いたときと
同じことなのか?」

こうして驚きながら、この言葉を口にした、ギリシャの船乗り。
そして、娘は牛との結婚を予感し、
髪を引き裂きながら、嘆きの声をあげた。

「声なき水よ、沈黙する波よ、あの牛に伝えておくれ、
もし牛が人の言葉を聞くというのなら――
『無慈悲な者よ、娘を哀れんでくれ』と。

波よ、私の愛する父に伝えておくれ、
エウローペーが、故郷を捨てて
ある牛に――誘拐者であり、船乗りであり、
そして、おそらくは私の夫となる者に――
さらわれたのだと。

母に、この髪の房を届けておくれ、渦巻く風よ。
ああ、懇願する、ボレアースよ、
かつておまえがアッティカの娘(オーレイテュイア)をさらったように、
私をもその翼に乗せ、空へ連れ去っておくれ。

――いや、待て、言葉よ、止まれ。
もしボレアースまで、あの恋に狂った牛と
同じように振る舞うのなら、私はどうすればいいのか!」

こう言いながら、娘は牛の背に乗って渡っていった。
そして、カドモスは放浪しながら、
国から国へと、花嫁を運ぶあの牛の足跡を追った。

彼はアルュモイの血塗られた洞窟にもたどり着いた。
そこでは、オリュンポスの破られぬ門を
さまよう峰々が打ち叩いていた、
そして、翼ある神々が、
風のないナイルの上空を
鳥たちですら追いつけぬほどの速さで
飛び去る旅を真似ていた。

風の流れを櫂のように操り、
七重の天が激しくかき乱されるほどに――
なぜなら、その時、ゼウス・クロニデスは
プルートスの寝所へと急ぎ、
天上の盃を盗む狂気のタンタロスを
生み出そうとしていたからである。

彼は天の武具を岩の奥深くに隠し、
稲妻の閃光を封じ込めた。
その間、神殿の屋根の下では、
黒煙を噴き上げる雷霆によって
純白の峰々が煤で黒く染まり、
隠された炎の閃光が
火舌を持つ矢のように、
泉の水を熱し、
ミュグドニアの峡谷の流れは
泡立ちながら蒸気を上げて轟いていた。

そして、大地の母の暗黙の合図に従い、
キリキアのテュポエウス(テューポーン)は
ゼウスの雪のように輝く
炎の武具を奪い去った。

その咆哮は、
あらゆる獣の鳴き声を
一度に響かせるかのように
轟きわたった。

彼の顔には
豹の斑紋を持つ竜が絡みつき、
恐ろしい鬣を
獅子の舌が舐め回し、
牛の角を
巻きつく蛇の尾が締め上げ、
長い舌を持つ顎から
毒を滴らせた猪の泡が
混じり合っていた。

そして、クロノスの子(ゼウス)の武具を
岩穴の下に置き、両手を天へと伸ばした。
そして、巧みな手を用いた軍勢(=武装した力)で、
片方の足をオリュンポスの頂の上にしっかりと据え、
片方で小犬座を押さえ込み、
もう一方では傾いたアルクトゥルスの尾根を押しつけ、
さらに別の手で牛飼い座を引き戻し、
また別の手で暁の明星(Φωσφόρος)を引き寄せた。

だが、むなしく天の円環の内で
鞭の音を響かせ、夜明けに駆り立てるように打ち鳴らした。
彼は夜明けの女神(ἡμιτέλεστος ἱππότις Ὥρη)を引き止め、
牡牛座(Ταύρου)の進行を妨げたため、
時の流れは混乱し、半ば途絶えてしまった。

さらに、蛇の髪をもつ頭たち(=怪物の首)の暗い髪の中では、
光と闇が混じり合い、
昼でありながら月(Σελήνη)が太陽とともに輝いていた。

巨人(テューポーン)はまだ止まらなかった。
彼は北から南へと戻り、極から極へと進んだ。
そして、その長い手で
御者座(Ἡνιοχῆος)の雨雲に覆われた背をつかみ、
山羊座(Αἰγοκερῆος)を鞭打った。
さらに、双魚座(Ἰχθύας)を天から海へと引き落とし、
牡羊座(κριὸν)を激しく揺さぶった。
それは、オリュンポスの中央に輝く星であり、
春分の星座(天秤座)と隣接して
霧に包まれつつ、昼と夜を均衡させていた。

テューポーンは雲に包まれた天空へと飛び上がり、
無数の腕を広げ、
澄んだ光を暗く覆った。
彼は蛇の群れを空に放ち、
そのうちの一匹は
天の軌道を走る車輪の縁を横切り、
天の龍座(Δράκων)の棘に跳びついて、
軍神アレスに向かってシューッと音を立てた。

別の蛇は、ケフェウス(Κηφεύς)のそばで
その天体の輪を巻き付け、
アンドロメダ(Ἀνδρομέδα)を
さらに強固な鎖で縛り付けた。
また別の蛇は、牡牛座の角に巻き付き、
その頭上をうねりながら
ヒアデス星団(Ὑάδας)へと駆け寄った。
その姿はまるで
月の角が開いたように見えた。

蛇たちの毒を持つ鎖が牛飼い座(Βοώτης)を取り囲み、
さらには別の蛇が
オリュンポスの大蛇(オフィウコス)を狙って
腕に巻き付き、
彼の盾の縁を咬みついた。
また、別の蛇は
アリアドネの冠座(στεφάνῳ Ἀριάδνης)に絡みつき、
その首を屈めながら、
腹の力で回転していた。

テューポーンは、
西風(Ζεφύρος)と東風(Εὖρος)の帯を振り回しながら
両方の方角へと吹き荒れ、
暁の明星(フォスフォロス)と
宵の明星(ヘスペロス)を引き寄せ、
アトラスの山頂に巻き付いた。

そして、海の深みから
何度もポセイドーンの海の戦車を捕らえ、
陸へと引きずり込んだ。
さらに、海の馬のたてがみをつかみ、
それを海底の厩舎から引きずり出し、
天の軌道へと投げ上げた。
そのため、
天を駆ける太陽の馬たちは
驚き、嘶きながら車を引いていた。

また、テューポーンは
野に放たれた雄牛のように
天空を駆け巡り、
腕を振り上げながら
月(Σελήνη)の形を模した幻影を投げつけ、
その進路を妨げた。

そして、鞭を鳴らして
白い牛の背を叩くと、
そこから毒蛇の不吉な音が響き渡った。

ティーターンの血を引く月(セレーネー)は、武装したテューポーンに屈しなかった。
彼女は巨人と戦い、その輝く輪を
牡牛の角の先で刻みつけた。
すると、月の光を浴びた牛たちが嘶き、
テューポーンの顎の裂け目を見て驚愕した。

時の女神(ホーライ)は恐れることなく
星々の軍勢を戦装束で固め、
天の軌道に並ぶ星座たちは
光の戦いに備えた。
すると、バッカスの狂乱のように
火を振りまきながら
天空を駆け巡る軍勢がいた。
それは北風(ボレアース)の者たち、
西風(リボス)の背に乗る者たち、
東風(エウロス)の軌道に沿う者たち、
そして南風(ノトス)の湾曲した腕を持つ者たちであった。

この混沌とした戦のさなか、
定まることのない星々の群れも揺さぶられ、
軌道を乱して彷徨う星々と交錯した。
天の中央を貫く軸は
轟音を響かせながら振動し、
その姿は、空を貫くかのようにそびえ立っていた。

この戦いを見つめる獣を狩る者(オリオーン)は、
剣を抜いて応戦しようとした。
そして、彼の輝く剣は
光を放ちながら
タナグラの刀剣のごとくきらめいた。

一方、星座の犬(シリウス)は、
灼熱の喉を燃やしながら
炎のような咆哮を轟かせた。
彼はもはや、兎を追うことなく、
テューポーンの魔獣たちに
牙を剥いて蒸気を吐き出した。

すると、天空全体が震え上がった。
さらに、天空に響き渡る七重の星の声(プレアデス)が
七つの口から戦の叫びを発し、
その音は天空を駆け巡る星々の
響きと一つになった。

恐るべき巨人の蛇のような姿を見て、
光輝くオフィウコス(蛇遣い座)は、
災厄を防ぐその手から
炎を宿した蛇たちの背を振り払った。
彼は、まだら模様の曲がった矢を放ち、
その炎のまわりには暴風が渦巻いた。
そして、狂乱するかのように
蛇の毒を帯びた矢が
空へと放たれた。

すると、魚の姿を持つ山羊(やぎ)座とともにある射手(サギッタリウス)が
矢を射た。
また、大車輪(北斗七星)の軌道の中に
双子の熊に分かたれたドラゴン(りゅう座)が
天空の棘の輝きを揺らしながら
光を引いて巡った。

その隣では、乙女座の近くにある御者座の隣人(牛飼い座・ボオテース)が
光る腕を振り上げ、
羊飼いの杖(カラブロス)を振るった。

そして、幻想のようにたたずむ白鳥座(キュクノス)の膝元で、
ゼウスの竪琴(リュラ座)が
勝利の兆しを告げる音を響かせた。

テューポーンはコリュキオンの峰を掴み、
激しく揺さぶった。
そして、キリキアの川を圧迫し、
タルソスとキュドノスを
その巨大な手で一つに押し潰した。

さらに、岩石のような矢を放ち、
海の波を打ち破って、
潮の壁を岩へと投げつけた。
天空に向かって海を鞭打ち、
その足が海を踏みしめるたびに、
水面が避けて
彼の腰が水の中から裸のまま現れた。

そして、膝の中央で
重く響く水が轟き、
蛇たちは海を泳ぎながら
火を吹き出し、
鋭い音を立ててアレスを呼び寄せた。
彼らは猛毒の息を吐きながら
海上に広がった。

テューポーンが海の深い谷へ降り立つと、
その巨大な足は
藻に覆われた海底に沈み込み、
その腹は雲に押しつぶされて、
空と混ざり合った。

彼の頭上から響く
獅子たちの恐るべき咆哮が
海の泥に覆われた海獅子と
一体となってこだました。
そして、すべての海獣たちの軍勢が
圧倒されて海に閉じ込められた。

地生まれの巨人(テューポーン)が
大地よりも巨大な海を
波打たせるほどの力で、
その腰をかき乱した。
その恐ろしい轟音に驚き、
アザラシは呻き、
イルカは海の深みに逃げ込んだ。

賢い蛸は、
その巻きつく触手を編み込み、
海底の岩にしがみつき、
まるで彫像のように姿を固めた。

もはや誰も恐怖を免れることはできなかった。
狂乱したウツボでさえ、
蛇の交わりを思わせる
神々との戦いに身震いし、
その毒牙の息吹を戦慄させた。

そして、海はそびえ立ち、
オリュンポスと一体となるほどに高く
波を盛り上げた。
水の中にいる鳥でさえ、
その隣人である海によって
水浴びを余儀なくされた。

テューポーンは、
三つの流れを持つ深海の交差点をつかみ、
その計り知れぬ腕を振るい、
ポセイドーンの大地を裂き、
海の基盤を引き剥がして
大地の島を丸ごと投げ飛ばした。

そして、星々の隣人たちは、
戦いを繰り広げる巨人の影に覆われ、
太陽を遮る暗闇となった。
しかし、オリュンポスの高地では、
敵の接近を防ぐために
槍を掲げる軍勢が
迎え撃つ準備を整えていた。

そして、ゼウスは
地の奥深く、隠された玉座に座し、
稲妻を手に取って構えた。

クロノスの子(ゼウス)が
その恐るべき武器を
二百の手で持ち上げようとしたとき、
巨人テューポーンはその重みに耐えかねて苦しんだ。
しかし、ゼウスはそれを
たった片手で軽々と支えた。

雲のない空に、
乾いた稲妻の雷鳴が轟いた。
だが、その音は
耳をつんざくような激しさではなく、
むしろ鈍く響く音であった。

テューポーンは炎熱の中、
乾きに苦しみ、
わずかに降り注ぐ霧のような雪にすがるしかなかった。

星々の間に閃光が走り、
煙のように薄く揺らめく炎が
あたかも悲しみに沈むかのように明滅した。

そして、稲妻たちは
その強大な手に導かれず、
自らの意思を持つかのように彷徨い、
本来の力を失っていた。

ゼウスの掌の中、
それらの炎は
かつての雄々しさを失い、
まるで女のように柔らかくなってしまった。

その計り知れぬ大きさの手から
次々と放たれた雷は、
まるで自らの意思で
天空へと戻ろうとするかのように逸れていった。

ちょうど、ある男が
馬を御す技術を知らぬまま、
手綱を操ろうとするも、
暴れ馬に見破られ、
言うことを聞かずに跳ね返されるように——

馬はその無能な手綱捌きを感じ取り、
後ろ脚でしっかりと地を踏みしめながら、
前脚を高々と上げ、
たてがみを逆立て、
肩を震わせて跳ね上がる。

それと同じように、
ゼウスの放つ雷も、
まるで制御されることを拒むかのように
空中で飛び交い、
光と炎の乱舞を繰り広げた。

その頃、カドモスは
アリモイの地を彷徨い続けていた。

一方、ディクテー山の峰の上で
神牛はその背から
乙女(エウローペー)を降ろし、
彼女を穢れなき土地へと休ませた。

ゼウスが彼女への想いに心を揺らしているのを見て、
嫉妬に燃えたヘーラーは
嘲笑混じりの怒りで
ゼウスに言葉を投げかけた。

「フォイボスよ、父に付き従い給え。
さもなくば、ある農夫がゼウスを捕え、
その鋤につなぎ、大地を耕してしまうかもしれぬ。」

「そうなれば、私はゼウスにこう叫ぼう:
“耐えよ、二重の刺し傷を、
農夫の鞭とエロースの矢の。”」

「かつてノミオス(アポローン)よ、
お前は父の羊飼いをしたではないか。
ならば、今こそ助けねばならぬ。」

「そうでなければ、月の女神セレーネーが、
愛するエンデュミオーンに逢うために、
ゼウスを牛の車につなぐかもしれぬ。」

「ゼウスよ、
イオは雌牛となり、
角を生やした姿となってしまった。
それもただ、
お前が夫としてふさわしくなかったために!」

「いつか、お前と同じ形をした雄牛を
妻の並ぶ角を持つ者として生むかもしれぬ。」

「気をつけよ、
ヘルメースが牛泥棒の狡猾な技で
お前をさらい、
我が子フォイボスに贈り物としてしまわぬように。」

「彼はお前をさらい、
その代わりに竪琴をフォイボスに授けるであろう。」

「だが、私はどうすればよいのか?
今こそ、全身に光を宿す百眼のアルゴスが
生きていてくれたらよかったのに。」

「彼ならば、ゼウスを難路へと引きずり込み、
ヘーラーの牧人として、鞭でその脇腹を打ったことだろう。」

こう語ると、クロノスの子ゼウスは
牡牛の姿を捨てた。

そして、若者の姿に戻ると、
孤独な乙女へと近づいた。

ゼウスの指は、
まず彼女の胸を飾る帯を解き、
次いで、ためらいながらも
膨らみ始めた胸の曲線を押し潰した。

彼はその唇に口づけをし、
沈黙のうちに衣を解き、
エロースの神々の果実を摘み取ったのだった。

そして、双子の子を宿して、彼女の腹は膨れ上がった。
そして、神聖な陣痛の時が近づき、彼女は自らの身ごもった花嫁を、
財宝の豊かなアステリオーンに託した。
ゼウスは夫として彼女を去った。

そして、御者(ヒュペリオーン)の足元に、
星々の輝きを放つオリンポスの牡牛座が昇った。
春の太陽(パエトーン)に向かって
潤いを帯びた背をかざしながら、
前足を折り曲げて斜めに昇った。
その半ば沈んだ姿は、
右足をオリオーンに向かって差し出しながら見え、
夕暮れに向かうと、より速く進んで
昇りゆく御者(ヒュペリオーン)の轡を追い抜いた。

こうして牡牛座は天に固定された。
しかし、テューポーンはもはやゼウスの武具を
手にしていることはできなかった。
なぜなら、ゼウスは弓を持つエロースと共に
旋回する天空を飛び去り、
山々をさまようカドモスのもとへ向かったからである。
彼は、テューポーンの運命を決定づけるために
巧妙な計略を練り、
忌まわしき叫び声を上げる怪物を
モイライ(運命の女神)の糸によって絡め取った。

そして、すべてを治めるゼウスと共に旅をする山羊神パンは、
ゼウスに牛や羊、曲がった角を持つ山羊の群れを与えた。
また、葦で小屋を編み上げ、
曲がりくねった結び目で地面の上に固定した。
そして、カドモスの肌に羊飼いの衣を偽装してまとうことで
誰にも正体がわからぬ姿となり、
偽りの羊飼いとして変装した。
さらに、狡猾な葦笛を手にして、
カドモスに渡し、それをテューポーンを滅ぼす
操舵手としたのであった。

こうして、ゼウスは偽りの羊飼いを装い、
自身の出自を隠した御者として
翼ある者(神々)を招き、一つの策略を巡らせた。

「カドモスよ、気を取り直して笛を吹け。そうすれば空も晴れ渡るだろう。
お前がためらっている間に、オリュンポスは打ちのめされてしまう。なぜなら、
テューポーンは我らの神々の武具で武装しているのだから。
私の手元に残されたのは、ただ一つのアイギスのみ。だが、いったい何になろう?
アイギスだけで、雷をもって猛るテューポーンに抗うことができるだろうか?

私は恐れているのだ。
もし老いたクロノスがこの様を見て嘲笑うのではないかと。
また、かつて我に刃向かったイアペトスの傲慢な首をも畏れている。
さらには、神話を生み出すこの地ヘラスが、
いつの日かテューポーンを「雨を降らす者」「高く支配する者」などと呼び、
私の名を汚すのではないかと。

だからお前は、たった一人の夜明けの羊飼いとなれ。
そして、その笛の澄んだ音色で、
この世界の牧者を司る者として、
牧笛を奏で、テューポーンを打ち倒すのだ。

私は決して、テューポーンの雷鳴を耳にしたくはない。
偽りのゼウスの雷鳴など聞きたくはない。
私は彼を、雷霆をもって撃ち倒すのだから。

お前がゼウスの血を引き、イナコスの娘イオーの末裔であるのならば、
その知恵ある笛の音でテューポーンの心を惑わせよ。
そうすれば私は、お前に相応しき褒美を授けよう。

私はお前を調和の支配者とし、ハルモニアの夫としよう。
そして、お前の婚姻こそが、調和に満ちた世界の始まりとなるのだ。

さあ、エロースよ、お前も弓を引け。
もう世界は彷徨うことはない。
もしすべてがお前から始まるのであれば、
もう一本、別の矢を放て。
それによって、すべてを救うのだ。

炎を帯びたテューポーンよ、お前を炎で武装させてやろう。
だが、私の雷霆は、必ずや私の手に戻る。

すべてを征する者よ、一矢で仕留めよ。
その矢で、クロノスの子ですら討ち倒せなかった敵を狩るのだ。
カドモスよ、お前の歌がテューポーンの心を魅了し、
私がエウローペーへの婚礼を思い焦がれたほどに、
やつを夢中にさせるのだ。」

こう言って、(ゼウスは)角を持つ牡牛とまったく同じ姿になって急いだ。
そこから、タウロス(牡牛)という名の山となった。
カドモスは、響きがそっくりな葦の音の欺くようなこだまを響かせ、
背を近くの牧草の森にある樫の木に傾けた。

そして、野に暮らす真実の牧人の衣を身にまといながら、
テューポーンの耳に巧みに巡らせた歌を送った。
頬を膨らませて繊細な響きを放ちながら。

そこに、歌を愛する巨人(テューポーン)は、
蛇の足を引きずりながら音楽に耳を傾け、跳びはねた。
そして、洞窟の奥に残していたゼウスの燃え盛る武具を母なるガイアのもとに置いたまま、
心を楽しませる笛の音色の近くを探し求め、
その調べに導かれて進んでいった。

カドモスは、それを茂みの近くで見つめると、
恐れを抱いて裂け目のある岩の下に隠れた。
だが、高く頭を掲げた怪物テューポーンは、
隠れようとする彼を見つけると、
言葉を発さずに合図を送りながら呼び寄せた。

そして、響きの美しい笛の音に仕掛けられた策略には気づかず、
彼は牧人に右手を差し出した。
それは、彼自身の破滅へと導く罠だとは知らずに。
(テューポーンは)血のように赤い顔の中央で、
人間の声で笑いながら誇らしげに高らかに叫んだ。

「山羊飼いよ、なぜ私を恐れるのか? なぜ手で顔を隠すのか?
私にとって、クロノスの子(ゼウス)を追うことは良いことだ。
私にとって、雷とともにシリンクスを奏でることは良いことだ。
笛と煤けた雷とは何の関係があるのか?

お前の笛をただ一つ持て、他のものはテューポーンが手にしたのだから。
あの者は、自ら鳴り響くオリュンポスの神の楽器を持っているのだ。
しかし、彼はお前の笛の響きを聞くことができない、
なぜなら雲無きゼウスは、沈黙の手を持っており、音楽を奪われているのだから。

ゼウスは、お前のわずかな葦の音を持つがよい。
私は単なる葦を葦に繋ぐのではなく、
転がる雲を雲に結びつけ、
天の轟きとともに雷鳴を響かせるのだ。

もしお前が望むなら、友情の競い合いをしよう。
お前は葦の調べを奏でよ、私は雷鳴を打ち鳴らそう。
お前は息を吹き込み、頬を膨らませ、
北風の激しい息吹の中で笛を吹き鳴らせ。
私は雷を轟かせる。

牧人よ、お前の笛の代価を得るがよい。
私はゼウスの王座を操る時、
地上を超えて天へと昇る。
お前を笛とともに運ぼう、もし望むなら羊の群れも共に。

お前の群れを失うことはないだろう。
私はお前の山羊を山羊座の背に置き、
あるいは馭者座の近くに。
馭者座はオレネイアのオリュンポスで
輝く腕を伸ばし、光を放つ山羊を掲げているのだから。

私は雷雲を生む牡牛座の広い背の近くに
お前の星々の牛を置き、
オリュンポスに昇らせよう。
あるいは、霧深い夜のニュッサの近くに、
そこでは牛たちが月に向かって風に乗り鳴き声を上げる。

お前の小さな小屋を気にする必要はない。
茂みの代わりに、天の子山羊とともに輝くがよい。
そして、別の飼葉桶を作ろう。
それは、隣の星座のロバの飼葉桶と並ぶものとなるだろう。

お前もまた星となる。
牛飼い座に連なる者となり、
天の車を操る狼の牧者のように。
テューポーンと共に住まう幸運な牧人よ、
今日は地上で歌え、明日はオリュンポスの中で。

お前の歌の代価に見合うものを
星々の環の中に置こう。
お前のシリンクスを天の竪琴と結びつけ、
ゼウスの神聖な調べと共に響かせよう。

もし望むなら、私はアテーナーとの純粋な結婚を与えよう。
しかし、もしお前が彼女を気に入らぬなら、
レートーでも、カリスでも、キュテレイア(アプロディーテー)でも、
アルテミスでも、ヘーベーとの結婚でもよい。
ただし、ヘーラーとの寝床を求めてはならぬ。

もし戦車を操る兄弟(アポローン)を得る運命ならば、
太陽神ヘーリオスの四頭立ての炎の車を受け入れるがよい。
もしゼウスを望むなら、山羊飼いよ、お前がアイギスを振るうことを願うなら、
私はこの贈り物を与えよう。

私はオリュンポスへと向かう。
ゼウスが武器を持たぬことなど気にかけぬ。
女であるアテーナーが何を私にしようというのか?
だが、牧人よ、テューポーンの勝利を待ち望むがよい。
私をオリュンポスの新たな王として讃え、
ゼウスの王笏を持ち、雷光の衣をまとった者として讃えよ。」

彼(カドモス)が言った。そしてアドレーステイア(運命の女神・避けられぬものを司る存在)はこのような声を聞き入れた。
しかし、彼女が気づいたとき、
大地の息子(カドモス)が、運命の糸によって
望んで罠にかかり、喜びをもたらす葦によって
甘い響きを放つ針(=楽器の音を奏でるリードや吹き口)で打たれたことを。

そこで、笑みなきカドモスは、策略をもって叫んだ。

「私のシリンクスの小さな響きを聞いて驚いたのか?
言え、お前はどうするつもりか? 私が七弦の竪琴を奏で、
勝利の歌を響かせて、お前の座を讃えたならば?
私は天上のピックを競い合わせ、
アポローンを我が竪琴の技で追い越したのだ。

しかし、我が調べをゼウスが雷でかき消した、
ゼウスの息子(アポローン)を勝たせるために。
だが、もし再び張り詰めた弦を見つけることができたならば、
ピックを打ち鳴らし、
私はすべての木々や山々、獣の心を魅了するだろう。

そして、自ら巻きつく冠を作り、
大地とともに調和するものとし、
大洋の逆巻く波を止めて、
同じニュッサの周りを巡るようにさせよう。
さらに、不動の星々の列や、互いに逆らい流れる星々を
静止させ、パエトーン(太陽)と月の帆柱をも止めよう。

しかし、神々とゼウスに向けて燃える矢を放つならば、
弓を持つのはただ一人に任せよ。
それは、テューポーンが宴の席で食事をするとき、
私とアポローンが競い合い、
誰が偉大なるテューポーンを打ち負かすかを決めるためだ。

ピエリアの女神たち(ムーサイ)を殺さぬように。
そうすれば、彼女たちはアポローンの歌声か、
あるいはお前の牧人の奏でる
女性の調べを男の歌声と調和させることができるだろう。」

彼(カドモス)がこう語ると、テューポーンは
血走った目を輝かせてうなずき、
髪を振り乱し、
彼の逆立つ毛髪が毒蛇のように唸りながら周囲に撒き散らされた。

そして、すぐさま自らの洞窟へと急ぎ、
そこからゼウスの弦を取り出し、
欺くようにして客人であるカドモスへと渡した。
それはかつて、テューポーンがゼウスとの戦いで
地上に落とした弦であった。

そして、その欺きの牧人(カドモス)は、神々の食物(アンブロシア)のような贈り物を承諾した。
彼はそれ(ゼウスの弦)に触れ、それを吟味し、
竪琴の弦となるべきものとして、
谷間の岩に隠した。
それはギガントを討ち滅ぼしたゼウスのために守られたものであった。

そして、慎重に細やかな息を閉じた唇から送り、
圧迫した葦を使い、その音色の調子を盗みながら、
さらに甘美な旋律を奏でた。
テューポーンは耳を大きくそばだて、
調べを聴いていたが、それが何かを理解してはいなかった。

魅了されたギガース(テューポーン)に対して、
その牧人は偽りの調べを奏でた。
それはまるで、不死なる者たち(神々)が逃げ惑う音を、
彼の細やかな笛でかき鳴らすようなものであった。

そして、彼はゼウスの勝利が間近であることを歌い、
座したテューポーンの運命を讃える調べを奏でた。
その歌は、さらに彼の狂気を駆り立てた。

それはまるで、若者が甘美な針で刺され、
恋の狂熱に捕らえられたようであった。
時には、銀色に輝く美しい頬へと視線を注ぎ、
時には、豊かに茂る髪の間にある
深みのある香りのブドウの房を見つめるように。

ある時は、バラ色の手を、またある時は
帯によって締め付けられた胸のバラ色の輪郭を
凝視しながら、首元の露わな部分へと目を向ける。
その美しさに心を奪われ、
貪るように視線を走らせるが、
決して乙女から目を離そうとはしない。

まさにそのようにして、テューポーンは
カドモスの音楽に完全に心を奪われ、
その全精神を彼の調べに委ねたのだった。
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