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【Book 3】
※ChatGPTに古代ギリシャ語版Dionysiacaを翻訳させています。
※内容の確認にはまだ手をつけていません。今後数年かけてW.H.D.Rouseの英訳との突合を行います。
※ソースはPerseus Digital Libraryです。


第三巻において、放浪を重ねるカドモスの船と、
エーレクトラーの館、歓待の宴が語られる。

そして、冬が過ぎ去るとともに(季節の)競技も終わった。
雲ひとつない帯の中に、明るく輝く剣の背を見せながら
オーリオンが昇ってきて(=冬が終わり春が始まり)、もはやキュクラデス諸島の湾で、
霜に濡れた牡牛の足跡が洗われることもなかった。(5)

もはや雨を生む北の空のもと、乾いた熊の方角(=北)には、
絶え間なく流れる水(雪解け水)の跡も見られなかった。
もはやマッサゲタイ人も、放浪の家を追って鞭を打ち、
車輪付きの木製のソリで氷の流れを踏みしめることもなく、
凍てついたイストロス川に水を求めて溝を刻むこともなかった。(10)

というのも、ゼピュロス(西風)の前触れとなる春の時が、
つぼみを裂いて生まれた露に満ちた風を酔わせ、
人間たちに親しい春の使者である声高いツバメが
早朝の眠りを取り去ったのだった。彼女は今まさに姿を現し、
香る衣を脱ぎ捨てたばかりの裸の花に、(15)
命をもたらす春の風を吹きかけて、ほほえんだ。
そして、キリキアの黄金色に染まる入江を後にして、
高い峰を戴くタウロス山の角を越え、
カドモスは夜明けとともに早くも進んでいった。
そのとき、朝の女神エーオースが闇を切り裂いたのだった。(20)

そして旅はまさに適した時であった。急ぐカドモスのために、
船の手綱が地面から動かされ、
高くそびえる帆柱は空を突き、
直立したまま穏やかな海に押し当てられて、
東の風の吐息で、軽やかなそよ風がざわめいた。(25)

それは導きのように鳴り、また気まぐれな突風にもかかわらず、
波を盛り上げながら、清らかな航路を切り開き、
静かな海のイルカのように飛び跳ねながら進んだ。
編み合わされたロープが鋭く鳴り、
急ぐ風の中、前方のロープがうなり、(30)

直進する帆は風に押されて膨らんだ。
水かさの増した波は逆巻きに裂け、泡立つ水が渦を巻いた。
船が急ぐにつれて、海の波が船のキールのまわりで
うなりながら声を響かせた。
舵の柄は、海を裂いて進む船の先で、(35)
湾曲した舷側を波の背に刻みつけたのだった。

そして、嵐のない十日目の朝、
カドモスはゼウスの穏やかな風に運ばれながら、
トロイアの海を支配するヘレの海峡を渡り、
風に満ちた海路を駆けて、
目覚めのカマンドロスに向かうサモス島へと引き寄せられていった。(40)

それはシトニアの隣地であり、そこに乙女ハルモニアは
まだカドモスのために保たれていた。
そして神託を告げる風たちが、神聖なるレアの導きにより、
その船をトラキアの岸辺へと導いていた。
不眠の松明の火がサモスから見えたとき、(45)

近くにいた水夫たちは喜んで帆をたたみ、
船を穏やかな入り江に近づけた。風は凪ぎ、
波一つない水面をオールでかき乱しながら、
港の陰へと到達した。まっすぐな岩でできた
穴の開いたオニキスの石が、船の綱を受け止めた。(50)

そして、波打ち際の深く砂の積もった湾にて、
船の曲がった歯のような錨が投げ入れられた、
太陽の子ファエトンが沈む時刻に。
海岸では船乗りたちが、柔らかな砂の上に
寝床を敷き、夕食ののちに休んだ。(55)

そして、まぶたの重くなった男たちの上に、
音もなく忍び寄った夢が静かに足跡をたどった。

しかし、燃えるような東風の赤い翼のかたわらに、
トロイアのイーダ山の裂け目を越えて、
港を見張るようにして朝の女神エーオースが姿を現し、(60)
対岸の黒い波を輝かせた。
そのとき、キュプロスの女神アプロディテーは、
ハルモニアを花婿と結び合わせるべく、
静かな海の背を、航海せぬままに伸ばしていた。
(※船出はしていないのに、海が静かに開けていくようななめらかな広がりがそこにはあった、というかんじらしい?)

すでに東の鳥が空を裂いて鳴き、(65)
放浪するコリュバンテスたち(=キュベレーの神官たち)の列が
クノッソスの舞を盾を打ち鳴らして踏み、
決められた歩調で進んだ。鳴り響く青銅の盾の音に、
鉄の打撃が巻き付くように響き、
皮張りの葦笛はその中で調和の旋律を奏で、(70)
舞人たちを駆り立てるように、
力強い拍動とともに激しく鳴り響いた。
樹々はささやき、岩々は轟き、
霊感を受けたテュイアデスの森も震え動き、
ドリュアスたちは声を合わせて叫んだ。(75)
そして、対岸の舞のように、熊たちがしきりに躍り、
ライオンたちは喉から咆哮を発し、
カベイロイの神々の神秘的な叫びを真似た。
狩り好きな女神ヘカテーが歌うと、
祭りを彩る一対の葦笛が音を鳴らした、(80)
それはクロノスの娘(レア)が創った角のある技術によるものであった。

そして、コリュバンテスたちの好んだ、響きわたる音を立てる騒ぎに、
朝早くカドモスは目を覚ました。
そして、同じように彼自身の仲間たちも、
夜明けの途切れることのない牛革太鼓の音を聞き、
シドンの水夫たちは、滑らかな艫(とも)から(80)
波の音をたてる岸辺の寝床を離れた。

カドモスは街を探し求めてさまよった。
仲間たちから離れ、船を残して、一人の旅人として。
そして彼が歩いていた時、ハルモニアの住まいから
侍女ペイトー(説得の神)が現れた。彼女は(85)
人間の姿をとり、働く女のように、
水をくみあげ、銀の取っ手のついた丸い壺を
腕で軽々と持ち上げていた。
これは予兆の使いだった。すなわち、将来の定めによって
花婿が婚礼の前に生ける命を与える水で清められることを告げるために。

そして彼女は街の近くにいた。そこでは、深くえぐられた溝の中で、
布を重ねて汚れを洗う女たちがいて、
速く足を運びながらその布を踏みしめていた、(90)
交互に足を踏み鳴らして。
そしてペイトーは、靴の先から頭の先までを
青い雲で覆い隠し、
見知らぬ姿のまま、王の館を探している
訪問者カドモスを導いた。

パピアの女神(アプロディテー)の意志による道案内として、
ある鳥が、やわらかなオリーブの木陰にとまって、
澄んだ目で、カドモスをじっと見つめながら、
大きな口を開いたカラスが(95)
ハルモニアに向かっていく花婿が
ためらいがちに足を進めるのをからかって、
翼を広げ、好んでからかう声でこう叫んだ:

「カドモスは愚か者か、それとも恋愛を知らぬ者か。
愛の神エロースは、花婿を遅く歩かせたりしない。許してあげなさい、ペイトー、
アプロディテーの命令に急ぐカドモスはお前を待たせている。(100)

情熱のエロースがあなたを呼んでいるのに、なぜ花婿は遅いのか?
甘やかされし者よ、あなたは愛しいアドニスの隣人、
ビュブロスに住む乙女たちに親しみ、
アドニスの川を見なかったのか、ビュブロスの大地を訪ねなかったのか?

そこは、カリスたちの館があり、アッシリアのキュテレイアが舞い、
武装を嫌うアテナも舞い踊る地。
今、結婚を楽しむ愛の女神の乳母ペイトーが
あなたの導き手なのだ、アルテミスではない。(105)

苦しみはやめなさい、ハルモニアを得なさい、そしてエウローペーを牛に譲りなさい。
急ぎなさい、エーレクトラーがあなたを迎え入れる、
その手から、愛の婚礼の荷を受け取りなさい。
愛の商いをアプロディテーに託し、
あなたの寝室を守るキュプリスの娘の代わりに、もう一人のキュプリスを迎えなさい。(110)

あなたはこのカラスを賞賛することになるでしょう、
そして私を愛の神エロースの神託の鳥と呼ぶでしょう。
私は狂っていた。けれど私を動かしたのはキュプロスの女神、
私はパピアからこの婚礼を予言しに来たのです、
たとえアテナの鳥であろうとも。」

そう言って、その口を証人のように沈黙で閉じた。(115)

だが、彼が通りを進んでゆくと、道のめぐりくねった通りの先に、
はるか遠くから、王(=イーマティオーン)の全てを迎え入れる館が見えた。
高くそびえる円柱に支えられたその館を、
その時ペイトーはカドモスに向かって、
彼の言葉の証人となるような、知恵ある指の動きで、(125)
静かな使者のように指し示した、光り輝く模様のある家を。
そして、ある神は、翼ある靴で滑り込むように空を走り抜けて、
異なる姿となって消えていった。

そしてカドモスは、その苦悩に満ちた目で館を見つめていた、
それはヘーパイストスの見事な仕事であり、かつて彼が
花嫁エーレクトラーのために、
レムノスのミュリナでの技術によって作り上げたものだった。
それは多くの精緻な細工を備えていた。新しく築かれた館には、(130)
青銅の敷居が設けられ、そこは車でも通れるほど広かった。
両開きの扉の柱は、細かい彫刻で飾られており、
屋根の中央には、丸い頂きを持つ穹窿があり、
壁の背は白い石膏で固く塗り固められ、
床から奥の間まで続いていた。

近くには広い中庭があり、露に濡れた植物が実を結び、
四方に広がって家の前に立っていた。
雄の葉を広げたフェニックスの木は、
雌のフェニックスの木への想いを託して葉を交わしていた。
光り輝く実をつけたオンクネの木も、その同年代のオンクネと共に根ざしており、(145)

朝の静けさにささやいていた。房を巻きつけながら、
重く実ったオリーブの茂みに這いのぼり、
春の風を受けながら、月桂樹のそばで
ミルテの葉は揺れていた。広葉の糸杉も
朝の香る風に髪をなびかせていた。

甘い実を結ぶイチジクの木と、豊かな汁気を持つザクロの木の果実が、
赤く色づき、葡萄のような実を添えて隣り合っていた。
リンゴの木は隣り合うリンゴに花を咲かせていた。
そして、多くのアポロンの技により彩られた葉には、(150)
木のように枝に沿って文字が描かれており、
悲しみに満ちたヒヤシンスの名が刻まれていた。
ゼピュロスが吹くと、絶え間なく育ちゆくその庭で、
飽くなきアポロンの眼差しが彷徨い、
若さの木が風に揺れているのを見て、
彼は円盤を思い出しながら身を震わせた。かつて少年に嫉妬して、
風の中にすら嫉みを抱いたのだろうか?(155)
彼は本当にあの少年が塵の上でもがいていた姿を、
涙なく見ていたのか?いや、アポロンは涙を流し、
その涙から花のような姿を形作り、
「アイリノス(ああ、悲しい)」とヒヤシンスに刻んだのだ。

その果樹園はこのように涼しげであった。近くには二口の泉があり、
一方からは住民の飲み水が流れ、もう一方は菜園に向けて、
多くの枝を通じて曲がりくねりながら水を導いていた。
ある流れは、まるでアポロンの甘く震える声のように、(160)
月桂樹の根元で音を立てていた。
そこには、一人の金の少年像が、
美しく彫られた石に足をかけて立ち、
饗宴を終えた者たちの向かいに、夕べの光を差し伸べていた。

たくさんの、同じ姿をした彫像が、技巧によって沈黙の中に
表情を持ち、詩人の口から語られた言葉のように
作られた犬の群れが、戸口のあたりにそれぞれ配置されていた。
そして、銀の犬の隣では、金色の犬がその首を寄せ、
主人にじゃれつきながら、共に吠えていた。カドモスが通り過ぎると、(175)
模倣する声のエコーが彼に向かってよそ者の叫びを送り、
彫られた尾の動きで、愛情深く彼の姿に応えた。

カドモスが、そのよく整った顔を巡らせながら、
支配者の庭を見渡し、彫刻や
美しく描かれた館全体の美を見ている間に、(180)
輝く金属の光を見ながらいた間に、
一方では、人々の集いと争いを捨てて、
高くそびえる丘に乗った馬の背に陽気に座る
エマティオーンが、トラーキアのサモスを治める王として、
アレースの神殿に入った。そこは母エーレクトラーの王宮であり、(185)
かつて兄弟の後を継ぎ、
支配の手綱を取って唯一支配していた王だった。なぜなら、
ダルダノスが故郷の土地を去って、
その反対側の大地に住み着いたからだ。

彼はダルダノスという名の城壁の高い町を築き、
イーダの地を犂で耕し、鋤で線を引いた。
そして、ヘプタポロス川の流れと、レーソスの支流を味わいながら、
兄に自らの土地を譲って、カベイロイの支配を託した。(190)

ダルダノスはエマティオーンの兄弟であり、
ゼウスの寝所に愛された者で、(=特別な寵愛を受けた者で)
ディケー(正義)という乳母に育てられた。
時が来ると、ホーライ(時の女神たち)は、
ゼウスの笏とクロノスの布、そしてオリュンポスの杖を持って、(195)
王女エーレクトラーの館に走り入り、
イタリア人たちの王権の預言者として、
揺るぎない支配を彼に預けた。
彼らはその赤子を育て、ゼウスの不変の言葉によって、
その若者は再び育ち、青春の花のように伸びていった。

そして、三度目の大洪水が、海の波で高く盛り上がり、
世界の座を押し流した時、彼はエーレクトラーの家を出た。
最初の雪の洪水は、
高く登ったオーギュゴスの時代に試みられたもので、(200)
空を水が切り裂き、大地すべてが水に覆われ、
テッサリアの岩の頂も隠れ、
ピュトの高嶺も雪の流れに揉まれていた。

第二の洪水は、大地の環を囲むキクラデスの地を、
狂おしい流れで覆い隠したときであった。
その時、デウカリオーンがただ一人、同じ年頃のピュラーと共に、
滅びゆく人類の中で、くぼんだ箱船に乗り、
見定めがたい吹雪の流れを切り抜けていた。(210)

水を含んだ霧の中を、螺旋を描いて船人は航海した。
そして三度目のゼウスの雨が、大地の座を押し流し、
岩を隠し、アトス山の尾根までも覆い隠した。
そのとき、雪の流れを分けて、ダルダノスが
古い隣国イーダの地へと足を運んだのだった。

そのとき、シトニアの雪に覆われた大地の支配者、
エマティオーンの血を引く者は、騒がしい民の集いを離れて
カドモスの姿に驚き見惚れた。なぜなら彼には、
生まれながらの若さと勇気、そして
相応の美が合わさっていたからである。(220)

彼はそのような姿に驚いていた。なぜなら、
偉大な王たちの目は、ことばなくしても
自らの意思を語る使者であるからだ。
そして、彼を迎えてもてなした。疲れていたエーレクトラーと共に、
さまざまな器を使って、彼に宴の食事を設け、(225)

客として、愛情ある、非難のない言葉をかけて
多くのもてなしを施した。だがカドモスは、
首を低く垂れ、侍女たちの目を避けるようにして
黙ったまま、辛うじて食事をとった。
客人の向かいに座る娘(ハルモニア)が、遠慮がちに(230)
顔を見つめながらも、慎み深く手を差し出していた。

彼らが饗宴を楽しんでいたとき、
コリュバンテスのイーダ山から、また新たな音が重ねて響いた。
多くの孔をもつ管からは、手の跳ねるような動きによって、
響き渡る笛の調べが一斉に奏でられ、
踊り手たちの指が歌を奏でて押し出していた。(235)

そして、跳ねるような打撃で、交わりあった響きが、
鳴り響く青銅のシンバルを二重に打ち合わせ、
組み合わさった葦笛と共に響かせた。
そしてその下では、七音の竪琴の弦が、
打ち鳴らす手の下で立ったまま震えていた。(240)

だが、ビストニアの笛の調べをもって饗宴が満たされたとき、
問いかけてくる王妃のそばに近づいたカドモスは、
海をさまよう痛みの衝動を押さえ、
自らの輝かしい血統を語り出した。
尽きぬ言葉の流れが、のどから泉のようにあふれ出た。(245)

「愛しき乙女よ、なぜそこまで私の血筋を問うのか?
人の世の生は、早世の葉に似ている。
葉は、あるものは秋の風によって地に落とされ、
またあるものは春に、咲き誇る森の木々に育まれる。
人の世の一族もまた同じく、儚く、(250)
あるものは滅びの中で命の道を駆け抜け、
あるものはまだ花開いている。
いつかまた別の形に屈するまで。
というのも、時はもはや取り戻せぬ蛇のごとく、
白髪から若さへと再び流れを変え、形を変えるのだ。

だが、私は名高い我が血統を語ろう。
アルゴスという町がある。それは、女神ヘーラーの馬祭の場で、
タントロスの島の中心にある町だ。
そこに、女を宿す種として、ある男神が
立派な乙女を授かった。その男神の名はイナコス、(255)
イナコスの名により讃えられる地の民である。
神殿の管理をする者であり、恐るべき都市の守護女神の
秘儀を、神託に導かれた奥深い技で執り行う
老いた祭司であった。そして、神々の先達、星の導き手たる
ゼウスを、娘の婿にすることは拒んだ。ヘーラーへの畏れから。(260)

だが、牝牛の姿を持った乙女は、変わりゆく顔を伴って、
野に放たれる群れへと加えられた──それがイオである。
そして、ヘーラーは、眠らぬ牧人として
美しく、動かぬ目を持つアルゴスを彼女につけた。
それはゼウスの牝牛婚の監視者であり、(265)
神であるゼウスの行いを見張る者であった。
乙女は、その多くの目を持つ牧人を恐れながら、
牧場へと歩んで行った。
イオは四肢を刺す虻に苦しめられ、
その身に跡を刻まれながら、イオニアの海の波を(270)
さまよう蹄で踏みしめた。
そして、彼女はエジプトに至った。私の大河に──
そこは、住民たちが「ナイル」と名付けた豊かな名の川。
それは、毎年地に満ち、
粘土を含んだ水の流れによって新しい泥土を運び、(275)
土地を潤す水の夫である。
イオはそこに至り、
牝牛の姿を神の角ある像から変え、
豊穣をもたらす女神となった。
そして、エジプトの果実を育てるデーメーテールとともに、(280)
我が角を持つイオの香り高い吐息が、
優しい風とともに舞い上がっている。
そこで彼女はエパポスをゼウスに産んだ──
というのも、イナコスの牝牛の清き胸を
神の夫が愛をこめて手で抱いたからである。(285)
その神より生まれた子エパポスから、リビュエーが出て、
リビュエーはメンピスの地に向かったポセイドーンを
夫として受け入れた──
そのとき、彼は地中の海を出てきた旅人であった。
そして、彼女はその旅人を受け入れ、(290)
陸の道を歩むゼウスとして、
リビュエーはベーロスを産んだ──私の血統を耕す者である。
そして、ゼウスの聖なる意志に逆らうことなく、
乾いたチャオニアの浜辺の神託が、
ハトの声に似せてこう語る──(295)
ベーロスは五人の子をもうけた。
フィネウスと、都市を離れたフェニクス、
そして、その兄弟と共に育った旅人たるアゲーノール──
彼は諸国を巡り歩いた放浪の身であり、
私の父である。彼は旅路をもっていた。(300)
彼はメンピスからテーバイへ、アッスュリアからテーバイへと旅し、
エジプトの土地において賢明なる農夫であった。
その人、エジプトスは恐るべきほど多くの子を持つ父であり、
男の子たちを授かることを願って、
わずかの息子の代わりに多くの娘をもうけた。(305)
そして、ダナオス──彼は故郷を離れた者──は、
男の種に対して武装させた。
彼は女たちに婚姻の剣を授け、
その剣は婚礼の夜に血を浴びた。
鉄を帯びた刃が、密かなる婚礼の床において、(310)
裸の戦士アレースを、女なるエニュオーが殺めたのだ。
ただし、ヒュペルムネーストラーだけは、忌まわしき結婚の業を良しとせず、
父の悲しき命令を退け、
空の風に祖父の命を投げ捨てた。
彼女は鉄の刃を血で染めなかったのだ。(315)
彼女とその夫との婚姻は、清らかなる結びつきであった。
だが、我らが親族たる乙女を、
たくましき雄牛がさらっていった。
本当に雄牛だったのかどうか──私は信じることができない。
なぜなら、雄牛が人間の娘との結婚を望むなど、信じがたいからだ。(320)
そして、私を──アゲーノールは、
兄弟たちとともに、
その乙女を探しに送り出した。
すなわち、波立たぬ海を渡る、あの偽りの海の雄牛を、
乙女を奪ったその荒々しき者を追って、
私は今、彷徨うこの地に辿り着いたのだ。」

そのようにして、優しく笛を吹く館の中で、
カドモスは、雄弁なる唇より言葉を注ぎ出し、
父祖の家系に由来する、子孫繁栄の誓いと
ティュロスの海辺の、偽りの雄牛なる旅人、
シドンの乙女を奪って逃げた者について語っていた。
(325)

それを聞いていたエーレクトラーは、慰めの声を上げて言った。

「客人よ、あなたは兄と祖国と父のことを、
忘却の渦と、記憶を奪う静けさの中に沈めなさい。
なぜなら、人間の生は次から次へと
苦難に満ちた運命にさらされるものだから。
すべての者は、誰であろうと、母の胎から生まれた者はみな、(330)
運命の糸を紡ぐ者の必然の支配下にあるのです。
私はその証人です。女王であった私、
かつて、あのプレイアデスたちの一人だったかもしれない私も、
七度もエイレイテュイアの助けを呼び、
出産の痛みを和らげてもらった経験を持つ者です。(335)
けれど、今の私は、父たちの館から遠く離れた地に住み、
ステロペーもマイアもケライノーも、
近くにいて共に暮らしてはおらず、
テューゲテーの腕の中で
嬉しげに幼子を抱く姿も見られません。(340)
アルキュオネの家を私は見ず、
またメロペーが語る心を慰める言葉も聞けません。
それに加えて、私はこれを最も悲しんでいます──
成長したばかりの私の息子は、父を残して、
柔らかき髭の兆しが見えたばかりのころ、(345)
イダ山のふもとの地へと去っていき、
トロイのシモエイス川の岸辺に、
豊かな穀物をささげ、他人の川から水を得たのです。
また、私の父アトラースは、今なおリビュエの果てにおいて、
老いし背を曲げ、肩を重くして、(350)
七つの天を支える虚空を抱えております。
それでも、私はこれほどの苦しみを味わいながらも、
慰めとなる希望を胸に育んでいます。
ゼウスの約束によって、
私は、他の姉妹たちとともに、地上を離れ、
星々の天の宮殿へと昇り、七番目の星となるであろうと。(355)
だから、あなたも自分の悲しみを和らげてください。
気づかぬうちに、あなたの上にも
運命の女神の動かざる糸が、
恐ろしき封印を刻んでいるのです。
祖国を離れた者として、必要な苦しみを耐え忍び、(360)
未来への希望を糧として生きるのです。
なぜなら、あなたの家系は、
始祖イオーにより地に根を下ろしたのだから。
リビュエから、ポセイドンの血を引く家系を受け継いだのだから。
他国にあっても住みなさい、ちょうどダルダノスのように。
彼もまた、他国に住まい、(365)
あなたの父アゲーノールのように、
異郷の都市に拠点を構えました。
ダナオスもまた、あなたの祖父の兄弟であり、
放浪者でありながら、神の血を引くイオーの子孫です。
名をビュザスという者は、(370)
自らの手でナイルの七つの河口の水を飲み、
隣国の地に都市を築きました。
そこは、ボスポロスの岸辺、
イナコスの娘なる牝牛が通り過ぎた水の流れる地であり、
彼の築いた光が、全ての隣人の間にあまねく輝いたのです。」

彼女はそう語って、アゲーノールの子の憂いを和らげた。
ゼウスはただちに、長き翼を持つマイアの息子を
エーレクトラーの館に急ぎ遣わした。カドモスのもとに
調和のうちに婚姻を結ばせるために、
空より降り立つ乙女ハルモニアを、妻として与えようとして。(375)

その乙女は、アフロディーテーと密やかな交わりを結んだ
アーレースが、婚姻の掟を破って愛した者であった。
そして、その密かな寝所の子として身ごもった娘を、
母は人目に触れぬように育てることはなく、
空の膝から、腕にかかえるようにして娘を引き寄せ、(380)
エーレクトラーの出産の館へと導いた。
その子の出産は、湿り気をもつ時の女神たち――産褥の女神たちによって
取り上げられた。その乳房は今なお豊かに
白き滴りを放ち、あふれ出ていた。
彼女はこの、義理の娘を正規の婚姻の掟のもとで受け入れ、(385)
ちょうど同じ乳で、ハルモニアを育てていた。
二人の子を抱えて、同じ思いで、
交互に抱きかかえながら乳を与えていた。
それは、ちょうど、山奥で双子を産んだ
毛深き牝ライオンが、乳の滴る乳房で(390)
二頭の仔に乳を与え、
交互に乳を分け与えるようなものであった。
まだ毛も生えていない首筋や皮膚を舐めながら、
同じように育て上げていった。
そのように、彼女は育ての乳房で優しく育てあげた、(395)
産まれたばかりの二人の子を、まるで並走する戦車のように。
何度も、幼い息子が同じ年ごろの娘と並んで乳を飲むとき、
母は腕を伸ばし、片方の乳房を赤子の手にあてがい、
太ももには男児を座らせ、隣に女児を置き、
衣の襞を広げて、膝の上に二人を寝かせた。(400)

そして、子らを眠らせるために、子守歌を歌いながら、
両の子に眠りを与え、乳母としての技で
彼らの首に沿わせるようにして肘を枕とし、
自らの膝を寝台として、
顔を覆うように布の端をやさしく巻き上げた。(405)

子を冷やし、
その暑さを鎮めるために、
風のような吐息を口から吹きかけていた──詩のように編まれた風を。

カドモスが、慎み深く女主人のそばに座っていたとき、(410)
門番に気づかれることなく、自身の盗人の足で
予期せぬままに、見とがめられることなく家の中に入ってきたのはヘルメースだった。
若者のような姿をした彼は、
薔薇色の顔のまわりには無造作に
ふさふさとした髪の束が揺れており、
頬の上には伸び始めたばかりの柔らかな髭が
細く赤らんで、左右に渦を巻いていた。

彼は、使者らしく杖を手にしていた。
その顔は神秘に満ちていて、
頭から足先まで雲の衣をまといながら、
静かな晩餐の席に足音も立てずにやってきた。

だが、エマティオーンも、ハルモニア自身も、
カドモスもその場の従者たちも、誰一人として彼に気づかなかった。
ただ一人、神を畏れるエーレクトラーだけが、
そのヘルメースの神秘的な言葉を見てとった。

彼は彼女を家の奥へと連れ出し、
不意に語りかけて、男の声でこう言った:

「母であり、姉である方よ、ゼウスの伴侶よ、ああ、喜びあれ。
女たちすべての中でも、最も祝福された者よ、というのも、クロノスの子は
この世界の支配をあなたの子らに託しており、
そして、大地のすべての都市を、あなたの子孫が治めるであろう、(425)
それは、あなたの愛の婚礼の報いである。わたしの母マイアとともに、

七つの流れを持つ星々のあいだに、オリュンポスにおいて
太陽の伴として、月とともに昇る輝きを放つであろう。
わたしは、あなたの子を愛する者よ、あなたの血を分けたヘルメースである。
不死なる者たちの翼ある使者であり、天から遣わされた者である。
高きものを支配するあなたの夫が、あなたの敬う客人のために、私を遣わしたのだ。(430)

ゆえに、あなた自身、あなたのゼウスに従いなさい。
そして、あなたの娘ハルモニアを、持参金なしに
同じ年頃のカドモスのもとに送りなさい。
そして、ゼウスをはじめとする至福なる神々に報いを返しなさい。

というのも、この客人は、苦しみにあった不死の者たちをすべて救ったのだから。(435)
この男は、あなたの苦しみにある夫を助けた者であり、
この男は、オリュンポスにも自由の日をもたらした者なのだ。
あなたの娘を母の嘆きで惑わせてはならない。
むしろ、災いから守る者カドモスのもとへ、婚礼に送ってやるがよい。

ゼウス、アレス、そしてキュテレイア(アフロディテ)に従って。」(440)
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